炎や氷の美しい描写、時間によって変わりゆく空の色、ぶつかると崩れる物体のエフェクト。ゲームの世界を彩る表現技術のクオリティは、現場からの「この世界観を表現したい」から生まれてきます。同時に、クリエイターが思い描く理想の表現と、開発リソースや検証コストとのバランスをどう取るかが、多くのプロジェクトで直面する課題でもあります。そうした現場の要望を起点として、本当に使われる技術を開発していく。ゲーム・エンターテイメント事業部(SGE)のコア技術本部で、グラフィックスエンジニアとして「需要駆動型R&D」を実践する清原。技術書『HLSL シェーダーの魔導書 シェーディングの基礎からレイトレーシングまで』(翔泳社)の著者でもある彼が語るのは、誰もが使えるライブラリとして提供される技術開発の取り組みです。
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清原 隆行 (SGEコア技術本部 グラフィックスエンジニア)2022年 中途入社。レンダリングの基盤の開発を行いつつ、複数のプロジェクトでレンダリングのパフォーマンスチューニングや不具合修正を行っている。
また、開発支援ツールも「Sirius」で提供しており、直近ではUnity 6のRender Graph環境で簡単にGPUの描画負荷を計測することができる「Easy GPU Profiler」の開発も行っています。これを利用することでAndroid端末などでもお手軽に各レンダリングパスの描画負荷を計測することができます。
── 表現技術の他に、開発効率向上の別の取り組みも知りたいです。表現技術の追求に加えて、コア技術本部では開発効率を高める取り組みにも力を入れています。開発コストがかかる大きな要因のひとつは、ゲームの世界観と表現を一致させるためのルック開発です。ゲーム・エンターテイメント事業部では多彩な表現を実現するためにカスタムシェーダーを1から制作することが多く、それによって独自性を生み出せる一方、カスタムシェーダーの設定が複雑で工数が増えがちという課題もあります。そこで注目しているのが、AIを活用したエフェクト制作支援です。例えばUnityエディタ上で「赤く燃える炎と上昇する煙のエフェクトを作って」と指示すれば、テクスチャやシェーダー、マテリアル、Particle Systemの調整まで自動で生成される、といった仕組みを検討しています。さらに「セルルック調に変えて」と入力すれば、その場でルックを切り替えて確認でき、チーム内でのイメージ統一や方向性決定のスピードが格段に上がります。実現するには技術的なハードルも高いのですが、社内に蓄積されたUnityのマテリアルやテクスチャーデータを学習に活用できる強みがあります。AIが得意とするテクスチャ生成やノーマルマップ生成と組み合わせれば、強力な制作ツールとなることが期待されます。技術的な課題はUnityのParticle Systemとの連携ですが、十分解決可能な範囲だと考えています。
── ゲーム開発の長期化も課題にある中、開発生産性の向上についてはどう考えていますか?制作フローの改善もR&Dの視野に入っています。直近で解決したいと考えている課題が、Mayaで制作したアセットをエクスポートしてUnityに取り込み、その都度動作確認するという手順の削減です。Mayaで編集した内容をリアルタイムにUnityで確認できるようになれば、ルック確認のプロセスが大幅に減り、効率化が期待できます。さらに、AIを適切に使ってプロンプトを書くだけである程度のルックを作れるようになれば、技術の民主化が実現し、誰でもある程度の水準のものが作れるようになるでしょう。これらの取り組みによってゲーム開発のサイクルが早くなることが予想されます。2年後、3年後の競争力を考えると、今から準備を始める必要があると感じています。── 今後の展望について教えてください。技術開発において最も重要なのは、「使われる技術」を作ることだと改めて感じています。どんなに高度な技術でも、現場で使われなければ意味がありません。私たちSGEコア技術本部が目指しているのは、現場の課題を起点として、本当に必要とされる技術を先回りして用意することです。これまでお話しした「Procedural Sky」や「ルックのスムーズな確認」などは、すべて現場から上がってきた「コストや工数の関係で、諦めていた表現」を解決するためのものです。「Procedural Sky」は既に複数のプロジェクトで導入検証が進んでおり、手応えを感じています。AIエフェクト生成についても、まずは小規模なプロトタイプから始めて、実際の制作現場でどの程度使えるかを検証していく予定です。こうした地道な積み重ねを通じて、ゲーム・エンターテイメント事業部のゲーム品質向上と開発効率化の両立を実現していきたいと考えています。── SGEコア技術本部では、一緒に働く仲間を募集中です。どういった方が求められていますか?特に求めているのは、ゲーム開発経験があり、なおかつ開発環境の改善に興味のあるグラフィックスエンジニアです。エフェクト制作の効率化、シェーダー管理の改善、アーティストが使いやすいツールの開発など、クリエイターが本来の制作に集中できるような仕組み作りに取り組める方が理想的です。現場で実際に困っている人たちの声を聞き、それを技術で解決していく。この地道な取り組みこそが、私たちSGEコア技術本部の存在意義だと考えています。一緒に新しい表現と開発環境を切り拓き、ゲーム制作をさらに前進させていきましょう。
SGEコア技術本部エンジニア募集
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